目覚ましがけたたましく鳴り響く。
瞬時に目覚ましを引っぱたき、音を止めてiPhoneを手に取る。
Twitterクライアントを起動し、半目でタイムラインを確認する。
今日も某教授が原子力問題について、どこぞの馬の骨と言い合っている。
そういう問題についてテレビは触れないし、新聞にも余り載らないだろう。
ネットだから知れる余り人の手を加えられていない情報は沢山ある。
その真実に近いと思われる情報を知ると、大体の人は怒ったり呆れたりするだろう。
そういう毒を含んでいる。
テレビはその毒を抜いた情報しか流れないけど、その方が精神衛生上には良い。
目覚ましのスヌーズ機能で、またやかましいベルが鳴り出す。
上半身を起こし、側面にあるスイッチを下げて目覚ましに止めを刺す。
Twitterに「ネットは毒だ。」と投稿して布団を抜け出す。
朝ごはんを食べながら、テレビには目もくれず耳だけ傾ける。
子供の列にクレーン車が突っ込んだらしい。
「可愛そうにねぇ。」
と、婆ちゃんが言う。
キャスターは他に家が壊れたとか、何人が死んで、何人が意識不明で、何人が重態だと淡々と伝える。
「おぉ嫌だ、可愛そうにねぇ。」
と、婆ちゃんがまた言う。
俺はと言うと、ただ黙々と飯を口に運びながら、テレビを今すぐにでも消したかった。
確かに可愛そうだが、悲しみを煽るようにしてそれを何分か置きに、何度も流すテレビが気に入らなかった。
このすぐ後には笑いを誘うような番組が流れ始め、婆ちゃんもそれを見て笑いだす。
テレビに操られているようで気味が悪いと思った。
俺はと言うと、食事を終えて出勤するための身支度をしていて、テレビには目もくれなかった。
出勤してみたらまだ仕事に入らなくて良いとの事なので、控え室でTwitterを覗く。
寝起きの呟きにリプライが付いていて、それに対する返信を考える。
が、どうにも上手くまとまらないので2連投。
その後に仕事に入ってくれといわれたので仕事を開始する。
で、その合間にサボりながらTwitterをチェックしたらまたリプライが返ってきていた。
今度は俺が2連投したせいで2つ。
嬉しくなって暴走したのと、やっぱり上手くまとまらなかったので、2連投して締める言葉を入れる。
仕事中にネットの毒について語り、満足したところで世の中を少し憎悪する。
やるせない感情に見舞われながら気だるく、しっかりと仕事をこなした。
夕方、仕事がヒマだったのでチラシを配りに出かけた。
こんな仕事でも店の中では一番時給が高い。
なんてオイシイ仕事だろうと毎度、バイトながらに思う。
アパートの近くにバイクを着け、周囲に投函していこうとした。
すると、目の前から小学2年生くらいの男の子が駆け寄ってくる。
「ピザ屋さん?ねぇ、ピザ屋さん?」
普段なら、仕事中は時間に余裕が無く、機嫌が良いということは余り無いので、うるせぇクソガキくらい思ってしまうのだが、この少年は友達も連れず一人だし、最近のませたクソガキのような生意気な感じもしなかった。
なので、少し気になり話に乗ってみた。
「いや、違うよ。弁当屋さんかなぁ。」
で、何してるの?と少年。
「お客さんが増えるようにチラシを配っているんだよ。」
何処のお店、あそこ?違う。あそこ?惜しい。
なんて他愛の無い会話に付き合った。
一応仕事もしなくてはならないので、少年に断りを入れてアパートのポストに投函していたら、少年が付いてきた。
何か言っていたが、よく聞こえず適当に相槌を打っていたらアパート一帯は配り終えた。
バイクの元に戻ると少年はバイクについて尋ねだした。
また、子供にわかりやすく話してやって、少しバイクに乗せてやったりしながら、相手をしていたら時間が経ちすぎてしまったので、戻ると伝えた。
去り際に少年は俺が見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。
なんだろう、こんなに誰かから俺に歩み寄ってきたのは、久しぶりかも知れ無い。
朝の最悪の気分や、昼の憎悪なんかどうでもよくなった。
そんな事に囚われていた自分がとてもちっぽけに思えた。
子供には毒も憎悪も無いから、それを取り除いてくれる何かがあるのかも知れない。
自分で思慮するには、真実と嘘の両方を飲み干して、それらをどう見分けるかが大事だ。
自分の信じていることを貫くには、それに敵対するものを憎悪することもある。
でも子供にはそんなのは関係なくて、ありのままに、好奇心の赴くままに動いている。
それこそがあるべき姿じゃないかと、自分もそうだったと思い出させてくれた。
ただの何気ない数10分の出会いだったのに。
俺もあまり毒に踊らされず、でも信じることは信じて、なるべくなら憎まずにいたいものだ。
あの少年のおかげで色々と晴れた気がする。
ありがとう。
あ、オモチャでもくれてやればよかったな。
気が利かないところも何とかしたいところだ。
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